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【感想/評価】疫病ネズミの大群が姉弟を襲う『A Plague Tale: Innocence』(プレイグテイル)レビュー

中世の黒死病を描く『A Plague Tale』

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 『A Plague Tale: Innocence (プレイグテイル)』は黒死病の災禍に見舞われたフランスを舞台に、姉弟の過酷な運命を描いた意欲作だ。

 題名にあるPlague(プレイグまたはプラーグ)は黒死病(ペスト)のことである。

 時は14世紀、世は暗黒時代。欧州を襲った黒死病(ペスト)は大流行し、人口の2/3相当の3000万人が死亡する未曽有の災害となった。

 貴族の子である姉の『アミシア』と弟の『ヒューゴ』は両親や使用人と共に疫病から離れ静かに暮らしていた。

 しかし、平和は突如として過ぎ去る。謎の軍隊に屋敷を襲われ姉弟は二人きりの逃亡を余儀なくされる。 


バディ×ステルスで姉弟の絆を描く

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 無垢な美少女と美少年が、突如として疫病と死が蔓延する暗黒時代のフランスに放り出される。

 幼き弟を守るため気丈に振る舞う姉の『アミシア』と、幼い故に素直に感情を表現する弟『ヒューゴ』の関係の変化が見所。


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 海外作品のキャラクターは写実的過ぎてちょっと苦手な人も安心の美男美女揃い。

 そんな美形姉弟が、フェルメールやブリューゲルといった名画をモチーフにしたステージを背景に悲嘆に暮れる。

 悲惨ながら目が離せない魅力がそこにあり、心を掴むだろう。


 ゲームデザインは『The Last of Us』や『ゴッド・オブ・ウォー』の様なバディ(相棒)と協力しながら進むシステム。


 物音を立て敵を誘導し隙を見て通り過ぎたり、『アミシア』が通れない狭い場所は『ヒューゴ』に頼んでパズルを解く流れとなる。


 システムが似ていると言っても『アミシア』は非力な少女。屈強なサバイバーや神殺しのハゲみたいな激しいアクションは無理な相談。

 そこで『アミシア』は投石紐や環境を利用して敵を誘導したり排除することになる。


 序盤こそ手札は少ないが、中盤から錬金術を使った特殊な弾丸が増え攻略に幅が出てくる。振り返って他の攻略法があったと気付くことも少なくない。


 直接手を下すとアイテム消費が加速し装備強化に支障が出る、避け続ければ発見のリスクは高まっていく。かといって安易にネズミを利用すれば自身にも危険が及ぶ。

 ステルスやパズルに新鮮さは無いが、魅力的な風景のステージも多く飽きさせない工夫がなされている。むしろ思ったよりゲームらしい作りで驚いた位である。


おぞましいネズミの群れは一見の価値あり

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 直近に『ワールド・ウォーZ』や『Days Gone』といった大量のゾンビを描写した作品が続いたが、本作のネズミもゾンビに負けず劣らずの見境なく肉を貪る獰猛なモンスターに仕上がっている。

 しかし意外とホラーやグロと言った要素は控え目で、不潔さの表現の方が目をひいた。「そんなとこ歩きたくねーな」と思わせるシーンが頻発する。感染症がテーマの本作として不衛生への嫌悪感を呼び起こしているのが素晴らしい。


 特に赤い目を煌めかせ蠢くネズミたちの姿はゾンビの群れなど比較にならないほど気色悪い。シーンによってはゴキちゃんに見えてくる始末。ゲームと言えど近づきたくない。

 その凄まじい数の群れに囲まれると「トライポフォビア(集合体恐怖症)」と名付けられた心理状態になる。具体的には『蓮コラ』を見た時に湧き上がる嫌悪感・恐怖心である。

 一説によると「トライポフォビア」の原因は、人の深層にある感染に対する恐怖が元だと言われている。つまり集合体が感染によって起きる湿疹や疱瘡といった皮膚感染症を想起させるのだ。

 ペストになると皮膚に膿疱や出血班ができ黒いあざだらけになって死ぬ。これがペストが黒死病と呼ばれた由来である。真っ黒なネズミの群れを見て湧き上がった感情が、ペスト感染者と対峙した時に通じていると考えると面白い。


 

細部の違和感が没入感を削いでいる

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 中世フランスの美しい風景や美形姉弟は眼福だし、怖気を誘うシーンは数知れず。映像に惹かれた人は間違いなく満足するだろう。

 しかし、どうも物語とゲームプレイの噛み合わせが悪い。効率的な攻略を模索し始めると物語が纏っている緊迫感や恐怖が薄れてしまうのだ。

 その最大の原因が敵AIの貧弱さである。本能に忠実なネズミは許せるとして、兵士諸君は揃ってゾンビ並みの脳みそときた。真横で物資を漁っても気付かない無能さに思わず失笑してしまう。

 兵士がネズミの群れの中を平気で闊歩するのも印象が良くない。無情な殺戮者として描かれる序盤は良いとして、中盤の目玉となるネズミへの反応が薄くプレイヤーの気分も醒めてしまう。

 かくしてゲーム脳にスイッチが入り攻略モードに入るとおしまいだ。あからさまにゲームキャラとして振る舞う兵士を前に、殺人を咎める『ヒューゴ』の呟きも、どこか白々しく聞こえてくる。

 ここらはネズミの群れが与える嫌悪感や『アミシア』達が見せる恐怖の反応が良いだけに残念である。もう少し兵士にも人間味を感じる怯えのサインが欲しかった。これじゃあ殺し甲斐もない。


PS4の日本語版は発売はするのか

 とりあえずsteamでは日本語字幕の配信がされましたが、現時点では海外PS4版には日本語字幕の配信は来ていません。

 韓国語やフォトモードの追加はsteam同様に配信されているので、どこか企業がPS4国内版の権利を手にし日本語字幕の配信を制限したのかも知れません。

 今のところ特に情報はないですが、そのうち国内流通版も出るかもしれませんね。


ネタバレありのストーリー感想

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 ここからはネタバレ感想。


 本作は一部で期待されたような史実に則した社会派の作品ではなく、ペストをテーマとした娯楽映画的なモンスタークライシスとなっている。

 ペストは当時「呼吸しただけ、目を見ただけでうつる」と恐れられた疫病。

 目に見えない感染症の恐怖を期待したが、思った以上のファンタジー調で肩透かしを受けた感は否めない。


 映画のチラシだったら「歴史の影に埋もれた衝撃の真実!」「暗闇に気をつけろ!奴らすぐそこにいる!」とか煽り文句が付いてそうな物語である。


 ところが意外とペストに付随した恐怖や史実をしっかり採り入れた3幕構成で、映画的ゲームを目指した『The Order: 1886』に近い印象を持った。


背景描写が良好な第一幕

 設定を語る第一幕は逃亡劇の最中に、歴史的背景をしっかり採り入れていた。


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 当時イングランドとフランスの間で起きた100年戦争の影響で、貧民は飢え感染への抵抗力を失っていた。

 その一方で貴族は貧民が流れ込む都市や村から離れて住み、十分な食料も得られたのでペストの被害は比較的少なかったという。

 黒死病は神から下された罰であるという説も流行り、記録からも感染者の扱いは惨いものだと伺える。

 特に貴族の中には貧民に同情すると感染すると考えた者も居たそうだ。世も末である。



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 その貴族であり比較的安全だった姉弟を襲ったのが異端審問だ。審問を取り仕切る異端審問官は法王権を行使でき、絶対的な権力を与えられていた。

 また制度の先駆けとなる第四次十字軍で、異端認定された者の財産を私有が許されるという通達があり、異端に仕立てあげ財産を没収するケースも少なからずあったそうだ。


 加えて14世紀フランスは魔女裁判解禁令が出されており、魔女裁判と異端審問が結びつき悪名高い『魔女狩り』へと繋がっていく過渡期にある地域である。


 必ずしも正しい表現ばかりでは無いが、当時の歴史背景が姉弟の逃亡劇に織り込まれており興味深い。物語を動かす感情に任せた言動や振る舞いも成人だとウザいが、幼い子供なら許せてしまう。


困難と障害を描く第二幕

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 『ヒューゴ』が冒されている『Prima Macula(第一の斑点)』の治療法を求めるパート。

 その過程で描かれた絵画的な美しい牧歌的風景や、ネズミや死体を始めとした不潔表現が感情を十分に刺激してくれた。その印象的な映像を背景に描かれる姉弟の関係の変化が見所。

 二人は『Prima Macula(第一の斑点)』が原因で実の姉弟でありながら、心的な距離が遠かった。ところが悲劇を境に逆境の中で互いを知り、姉弟としての絆を紡いでいく過程が良かった。


 弟の手前、張り裂けんばかりの胸中を押し殺す『アミシア』と、無邪気な『ヒューゴ』の掛け合いが、姉弟愛と悲惨さを高めていた。

 中でも徐々に弟への強迫的な献身を見せる『アミシア』と、痛々しい病状の『ヒューゴ』が行う『アミシア』への謝罪が心を打った。



 しかし、ナラティブな作品として見ると綻びが感じられた。

 その原因は物語とゲームプレイの間で生じた違和感だ。


 序盤で道徳を試すようなイベントを用意しているが、気が付けば道徳を問う雰囲気は微塵もない。


 むしろ特殊弾の種類が増える中盤から、アイディアに合わせ強制的に殺させるステージが目立ち始める。

 気が付けば強化素材を求め無駄にリスクを冒したり、不要な殺しを行うことが増えていく。

 このプレイヤーに強制的に殺人を促す作りで、ゲームプレイと心理描写の間に溝が出来てしまった。


 確かに使用人含め一家皆殺しにされ、絶えず追われ続ければ、可憐な『アミシア』が闇落ちしても不思議は無い。


 だが終盤で瀕死の兵士に復讐し『ルーカス』に絶句されても、既に何人も手に掛けており何を今更と言った心持ちになる。


 初めてのボス戦で殺人に慄く『アミシア』が印象的な分、もう少し殺しの重責が描かれても良い気がした。


奪還と復讐の第三幕

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 三幕構成のラストを飾るのは、教会に家族を奪われた子供たちによる復讐劇。対するは諸悪の根源『ヴィターリス』と『白い天使』。


 いきなり悪に立ち向かう英雄とその一行的な流れに呆気に取られるが、凛々しい表情の『ヒューゴ』が醸し出す風格で変に納得してしまう。美少年だけあってホント絵になる。


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 皆で決死の覚悟を誓い合ったら、揃って敵地に乗り込み『ヒューゴ』の『インペリウム(命令権)』無双。

 美しくて凛々しい『アミシア』の魅力に引っ張られ忘れがちだが、やってることは凄惨な復讐劇。


 序盤で散々苦しめられたネズミの群れを味方に、邪魔な兵士を皆殺しにする姿は悪役そのもの。

 母娘揃って幼い弟に殺人をさせるのだからエグい話である。

 何せ使役するのが疫病の権化であり、兵士側の視点で見たら悪魔そのものだろう。


 対するラスボスの『天使』もテラテラと光沢があり実に気持ち悪い。白く蠢く姿からは蛆虫を、液体をイメージさせるエフェクトには膿を連想させる素晴らしい仕事である。


 これを天使と呼び、群れに平気で包まれる辺り『ヴィターリス』は脳みそまで冒されてるに違いない。



 なお、ラストを飾る黒幕である異端審問官『ヴィターリス』戦と白黒つけるナワバリバトルは、宿敵である騎士『ニコラス』戦と比べ余り楽しい戦闘でもなかった。

 
 『天使』のネズミタワーや描画されるネズミの数はインパクト抜群、『ヴィターリス』に向かい4人並んで進む演出で盛り上がったので、折角だしB級映画お約束の爆発オチで派手に散らす位がゲームとしては面白そうに感じた。


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 とは言え、その後の不穏さを感じさせる幕引きは美醜が織り交ざった独特な魅力を放つ本作に相応しい。




エンディング

 かくしてエンディングで本来の子供らしさを見せる姉弟。

 再びチュートリアルと類似したステージをプレイさせ、『アミシア』の成長と姉弟の関係が変化したことを示すニクい演出だった。

 しかし、その変化は多くの物を失い多くの人命を奪った結果であり、二人の先行きに不安を覚える。どうやら私は『A Plague Tale』の世界にハマってしまった様だ。


 伝え聞くところ3部作の予定らしいので、この毒気が残るラストを続編にどう繋げるか楽しみである。