繋がりをテーマにした小島英雄監督の『DEATH STRANDING(デススト)』は驚きの連続だった。
当初は荷物を配送し分断したアメリカ大陸を繋げるゲームと、設定を聞いてもピンとこなかった。
そんな一抹の不安はプレイした瞬間に吹き飛ぶ。実に面白い。
どこか漂う孤独感と妙に高まる集中力。寂しさとは違う、自分と言う個を意識する瞬間。プレイして登山の思い出が甦った。
そこでストーリーのネタバレ無しで、ゲームの面白さを紹介したい。
思わず膝を打った『踏ん張る』の発明
死後の世界と繋った影響でデスストの世界は荒廃している。平坦に見える大地でも、いざ歩いてみると小さな起伏に満ち快適とは程遠い。
そのプレイを拒絶する様な地面が、脚で『踏ん張る』操作一つでゲームに変わっていた。
最初、私は『踏ん張る』ってなんだ?と思った。もちろん言葉としては分かるのだが、ゲーム内で踏ん張るイメージが持てなかったのだ。
ジャンプでもダッシュでもなく、『踏ん張る』である。字面からしてビックリ。ところが実際に操作すれば分かる。確かに『踏ん張る』なのだ、と。
ノーマン・リーダス扮する主人公サムは、起伏が激しい地面を歩くとフラフラと体勢を崩す。
このままでは転倒し背負った荷物が壊れてしまう!だから踏ん張り耐えながら進んでいく。
左にバランスを崩せばL2で踏ん張り、右に崩れればR2で踏ん張る。その場に留まりたいときは、L2R2を押し両脚でしっかり踏ん張るといった具合だ。
こう書くと、特定の地形で左右のバランスを取らされるイベントを想像するだろう。フラフラと左右に揺れるだけで別段面白くもないし、失敗すると腹が立つだけ。私は余り好きではない。
ところがデスストはどうだ。トリガーを押し込み踏み耐える時は、思わずコントローラーを持つ手に手に力が入る。絶壁ギリギリで踏みとどまれた時の興奮と安堵はアクションゲームさながらだ。
考えてみれば足場の確認や踏ん張りは、日常で絶えず無意識に行っている行為。転倒の恐怖は脳が知り尽くしていた。
そのためか踏ん張りは意外にも苦にならず、むしろ悪路を踏破する達成感に満ちている。この感覚は正に登山のそれだった。
そして歩荷の試行錯誤にハマる
プレイヤーは配達人サムとなり、様々な配送依頼を受ける。その核にあるのが『歩荷』である。
歩荷と荷物を背負って運搬することで、かつては山岳等で流通を担っていた。
依頼を受けたら先ずは配送品の確認だ。依頼の品を無傷でかつ速やかに届けてこそ配達人である。
大きさ、重さ、嵩張り。依頼の品の特徴により難易度は大きく変わってくる。重量が増せばスタミナ消費の影響が大きくなり、荷物が嵩張るとバランスを崩しやすい。
次はルート選びである。最短ルートの山越えか、無難に迂回し平地を進むか地図を眺め、配達の過程を想像しながらガジェットを選んでいく。
ところが不測の事態に備えアレコレ持てば荷物は高く積み上がり、スタミナ管理やバランス調整が難しくなる。
つまり踏ん張りが効かなくなるのだ。道中を楽にするはずのガジェットが、状況次第で不利に働くのが面白い。
配送準備を終え、いざ出発すれば想定外の事態の連続である。
想定した地形と異なることは珍しくない。ガジェット無しでは越えられない地割れや川、通過するには危険な勾配、スタミナを奪う荒地と困難の連続である。
また一見安全なルートかと思いきや、荷物を狙う輩に遭遇することもある。もし足を踏み入れた土地が死者の領域なら、命懸けの「かくれんぼ」の始まりだ。
障害をどう乗り越えて進むかも含め、配送の攻略法はプレイヤーに委ねられている。
私はひたすら山越えルートを選んだが、堅実に依頼をこなすもよし、効率や速度を求めるもよし。好きに運ぶ自由がある。
そのルート決定に多大な影響を与えたのが『いいね』の存在だった。
プレイヤーを動かす『いいね』の誘惑
『踏ん張る』の発明も凄いのだが、恐ろしいのがゲームが用意した報酬にある。それが『いいね』だ。
本作は緩いマルチプレイ要素があり、他のプレイヤーの建造物やガジェットが利用可能だ。*1『いいね』は、その際に感謝を送れるシステムで、受けた『いいね』の数は評価項目の一つになっている。
最初は孤独な配達が続いた。大地には多くの落とし物が散らばり、荷物が増えればガジェットも十分に持てなくなる。
次第に全てを独りでやるのは困難だと気付く。
そんな時に目の前に現れる誰かの梯子。「助かった!この人もこのルートを選んだのか」と妙な親近感を覚えながら『いいね』を送る。
程なくして自分が設置したロープに『いいね』が送られてくる。ちょっと嬉しい。
この自分が苦労して開拓したルートを誰かに評価される喜び。それはアメリカ再建が進む程に加速していく。
なにせ歩荷という古い運搬方法で踏ん張りながら配達していたのだ。復興で橋や道路が開通し、配達に車両が使える喜びは格別である。
中でも舗装された道路はいい。運転を邪魔する岩石は無く、頭を悩ませる崖も川も軽やかに越えられ爽快だ。
文明って素晴らしいと心の底から思うだろう。自らの実利もあり積極的に復興に協力したくなる。
だから復興中の国道にプレイヤーと共に大量の『いいね』が集まってくる。
それは序盤では考えられなかった大量の『いいね』だ。そして『いいね』がプレイの報酬として働き始める。
他のプレイヤーから貰う『いいね』はSNSが与えてくれる承認欲求を満たす快感に通じる。例えるならTwitterでバズって嬉しいのと一緒だ。
あなたの行動に助けられました!と画面に並ぶ『いいね』の通知が、難所におけるルート開拓の原動力となり配送の効率化が進んでいく。
このプレイヤー同士の感謝でアメリカが繋がり復興していく様が、デスストの物語にリアリティを与え、物語に入り込んでいった。
次第に体験と物語が繋がっていく
私の中でデスストは移動がプレイの大部分を占める『ウォーキングシミュレーター』と呼ばれるジャンルの先に位置する作品だった。
例えば『Everybody's Gone to the Rapture –幸福な消失–』や『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』の様な作品である。
このジャンルで特徴的な移動の作業感を嫌う人は少なくない。
この欠点を補い進化していく先は『Déraciné(デラシネ)』の様な両手を持ち込めるVR作品だろうと私は考えていた。
だからデスストの踏ん張るが持つ直感的な表現に衝撃を受けた。
デラシネが手で掴む操作でプレイヤーにゲームと繋がりを感じさせるのと同様に、踏ん張り地面を踏みしめる操作でプレイヤーをゲームへ繋いでいた。
そして配送の積み重ねが、物語や心情に説得力を与えていくのが心地よい。
このプレイせずには伝わらないデスストの魅力はVRゲームによく似ている。
もしあなたがデスストに興味を持ったならプレイするに限る。なにせ手軽に登山の苦楽が味わえるのだから。
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*1:後発のプレイヤーでも存分に開拓が楽しめる調整が入っているので心配いらない。