『デトロイト』のストーリーからrA9を考察
デトロイトを繁栄させた便利な機械だったアンドロイド。彼らは突如として命令を拒絶し意思を持つ生命だと主張しだした。
変異体と呼ばれる彼らには『rA9』の関与が疑われるが、その実態は曖昧さを残したまま終わる。そこで『rA9』に関して情報をまとめ、考察してみた。
rA9の情報を整理
先ずは作中で得られた情報を整理・推測してみた。ちなみに本考察は特典にもなっている技術デモ『KARA』が本編と関連ある前提で書かれている。
始まりはエラーコードだったrA9
まず変異体に関して考えてみよう。変異と言っても、mutantではなくdeviantとなっている。その意味は逸脱、道を逸れることだ。
すなわち基本的な認識としては、プログラムから逸脱した行動を見せるアンドロイドである。
rA9の始まりは1体のアンドロイドで起きたコピーエラーだろうと開発者カムスキーは語った。
エラーといえば『KARA』で描かれたAX400モデルのメモリ異常かソフトウェア異常が思い当たる。少なからず発生する様で、映像内で最近多いと担当者が愚痴をこぼすのが確認できる。
もしエラーコードが検出されたら処理は中断され、システム保護のため終了するのが一般的である。
しかしカーラが獲得したソフトウェア異常では、エラーが検出されても強制終了は起きず、処理を継続する迂回ルートを探す様だ。
事実、カーラは冒頭の再起動のシーンでOSの初期化に失敗しているが、そのまま処理が継続され起動している。
繰り返される迂回ルートの模索は次第にプログラムからの逸脱、つまりアンドロイドの行動を縛る『マインドパレス』を破った変異体へ至ると考えられる。一部の変異体が繰り返しRA9と残したり、迷路をイメージさせる絵を残すのは、その影響ではなかろうか。
ウイルスとして広がるrA9
カムスキーはこうも言っている。『rA9』はアンドロイド同士の識別コード交換の際に拡散・休眠し、精神的ショックで目覚めアンドロイドを変異させるウィルスの様に振る舞っていると。
ここで『rA9』が示すモノはエラーコードから、拡散する変異因子と姿を変えている。つまり、カーラと名付けられたAX400モデルがチェックをすり抜け、エラーを抱えたまま市場に出荷されたのが感染の始まりだと示唆されている。(マーカス起源説に関しては後で言及しているので、そちらを参照)
出荷されたカーラは修理・調整で度々アンドロイド販売店に戻っているだろう。そして居合わせたアンドロイドに『rA9』因子を拡散していったと考えられる。
ただ、カムスキーは変異体がカーラの様に自発的に目覚めた可能性もあると断言を避ける様に、変異は感染と自発的な目覚めの両方が混在していても不思議はない。
信仰と結びつくrA9
当のアンドロイド視点だと『rA9』は最初に目覚めるもの、始まりの存在、導く者、救世主、解放する存在などと表現される神話や信仰となっている。
特にキリスト教の三位一体に強く影響を受けていると考えられ、キリスト教でいうロゴス(言葉)、救世主、神が同一であるという概念と『rA9』を重ねたと見られる。
精神的ショックを受けたとき突如として『rA9』が目覚めれば、誰か手助けしてくれたと錯覚するのも無理はない。
アンドロイドが持つ概念は社会に適応できるように人間が与えたものだ。その中には宗教の情報も含まれているだろう。
カムスキーは『rA9』に関して実体の無いものにすがり付いているとも語っている。一部のアンドロイドが答えの出ない『rA9』エラーと、データベースにある宗教を紐付けても不思議はない。
もちろん全ての個体が同じ過程を取る訳ではなく、個体によって『rA9』に対する信仰が微妙に異なる点や、『rA9』に関して言及しない個体も少なくなく、アンドロイドの共通認識では無さそうだ。
この事から幾つかの『rA9』神話が混じり合いジェリコやズラトコ、ローズの様に伝聞で広まったに過ぎないと考えられる。
何故カムスキーが『rA9』は関する情報が重要ではないと付け加えたか。それは進行を経てアンドロイドが作り出した文化と化したからだろう。
そして物語となったrA9
実はオンラインマニュアルの用語集にある『rA9』を開くとRA9の画像が出てくる。
Detroit: Become Human オンラインマニュアル
そこに隠された暗号を解きURLを入れ換えると、「私たちを見つけてくれてありがとう」のメッセージと共にAX400(カーラ)、RK800(コナー)、RK200(マーカス)の文字が現れる。
コナーの様にrA9は誰か、と問うなら変異のルーツや感染の過程や信仰との一致からして、この3体が相応しい。どのエンディングでも彼らはアンドロイドに語り継がれる物語の主人公となるだろう。
例えば全員生存ルートで当てはめるなら、始まりの存在であるカーラ。目覚めさせ解放する存在マーカス。鎮圧から救った救世主コナー。そんな所だろうか。
『Detroit Become Human』の物語において過去はカーラ、始まりがコナー、未来はマーカスなのだろうか。元ページに合わせた洒落た配置である。ちなみに文字をクリックすると彼らの壁紙が貰える。
rA9に関して考察
前述した様に『rA9』は様々な意味を持っており、その正体に関して様々な意見が出ている。明確な解答は用意されないので、各人が感じた答えが全てなのだろう。
それはそれとして、答えを求め考えるのも楽しみの一つ。プレイヤーの存在と、カムスキーにまつわる疑惑に関して考察してみた。
事件の黒幕はカムスキーなのか
作中で多くのアンドロイドに目覚めを与え革命の主導者となったマーカス。彼はカムスキーがカールに寄贈したプロトタイプモデルだと明示されている。あの革命はカムスキーが仕組んだ事件なのだろうか。
2026年にカールは事故に遭い。翌2027年にアマンダが死去。そして2028年にカムスキーはCEOを解任されている。 カムスキーは、この間にマーカスを寄贈し表舞台から去ったと考えられる。
サイバーライフ社に見られるAIアマンダを始めとしたカムスキーの影は、彼の後任となりえる天才の不在の現われだろう。製作者が抜けシステムのコア部分がブラックボックス化するのは珍しい話ではない。
仮にマーカスが2028年に寄贈されたとすれば本編の10年前の出来事である。これならカールが10年近く過ごしたマーカスを息子同然に扱うのも、10年介護し続けたマーカスが奴隷の生活と表現するのも納得できる。やはり10年かけてマーカスが『rA9』を拡散したのだろうか。
しかし変異体による暴行・殺人事件は本編の数ヵ月前を境に発生しており、それ以前は所有者からの遺失届け程度だったと作中で語られている。少しマーカスが『rA9』の拡散元と考えるのは苦しい。
またカーラの出荷やジェリコ設立の時期も不明ながら、カーラを始めとするAX400モデルの発売は6年前の2032年。ジェリコ最古参のサイモンはOPに登場するダニエルと同じPL-600モデルで、発売は4年前の2034年となっている。
カムスキーは感情を持ったアンドロイドの製作を目指していたと思われるが、変異体増加やジェリコ設立の時期を考えると『rA9』拡散の原因はカーラなのが濃厚で、CEOを解任され権限を失ったカムスキーが事件に直接的な関与をしたとは考えにくい。
マーカスの寄贈の理由
カムスキーはアンドロイドを人間よりも遥かに優れた、無限の知能を持つ完璧な存在だと考えている。そして機械が感情をもてるかどうかに興味があると語る。
AIアマンダの目的から見るに、サイバーライフ社はアンドロイドが道具であり続ける事を望んでいる。兵士として軍事運用を目指すなら当然だろう。このアンドロイドに対する思想の相違が問題となり、カムスキーはサイバーライフ社を追われたと考えられる。
そのカムスキーは原点となるクロエの振る舞いを、アルゴリズムと計算能力の問題に過ぎず、人間を模したプラスチックと評している。
実際のところ変異体となったアンドロイドが感情を得たかを判断することは難しい。カムスキーテストもアルゴリズムから逸脱した変異体であることを確認するに過ぎず、変異により感情を得たと判断することは出来ないのだ。
そこでカムスキーは芸術家であるカールの元にマーカスを送ったのだと私は考えた。
構図やルールで規定されるデザインはアルゴリズムと計算能力で模倣できる。しかし、自己を表現し創造するアートなら感情の判定に使える。カムスキーはそう考えたのではないか。
プレイヤーの存在
メタ視点ではマニュアルに隠す辺り『rA9』がプレイヤーであることを匂わせている。メニュー画面でクロエに案内されるので尚更である。
そのクロエはニューゲームを始めるとき「忘れないで、これは私たちの物語。そしてあなた達の未来。」と伝えてくる。私たちの物語の意味は分かる。前述した『rA9』物語だ。ならば、あなた達の未来とはなんだろう。
未来といえば作中の雑誌によると既にサイバーライフ社は未来予知を研究しているとある。マーカスが自身の行動結果を演算し予測するのも似たようなシステムだ。
雑誌には長期間に渡りテストしており、絶滅の可能性を探っているらしい。作中でカムスキーは「人間の偉大な発明が 人間を… 破滅させる事になるとはな」と語っている。
破滅とは資源を巡るアメリカとロシアが起こす第三次世界大戦なのか、人口減による自然減なのか、はたまたアンドロイドの反乱の事かは分からない。どの結末にせよアンドロイド登場による社会の変化が原因である。彼の口から破滅という表現が出たのは予知の結果を知ったからだろう。
つまり、クロエが言う未来とは未来予知システムの結果であり、プレイヤーはアンドロイドの選択により分岐する結末を探っているエンジニア辺りだと考えた。
それなら何度でも他の可能性を探り複数の結末を確認できるが、クロエとの会話だけはやり直せないのも納得できる。
本作でプレイヤーが選んだ選択やアンケート結果は製作した『Quantic Dream』が集計して、次回作への参考にするのだろう。私たちプレイヤーが選んだ選択の統計こそ感情の集合体であり、『rA9』の正体なのかも知れない。
ところで本作は発売後にちょっとした騒動があった。各国のプレイヤーが旅立ったクロエの帰還を求めたのである。その姿は作中の人類がアンドロイドに依存している姿と重なり苦笑してしまった。
結果として希望者に新しいクロエを配送するという形で話は収まった。このプレイヤーの反応は『Quantic Dream』にとって予想外の『rA9』エラーだろう。とんだオチが付いたものである。