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[感想・評価]『Hellblade: Senua's Sacrifice』レビュー

精神病と真摯に向き合った作品

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 舞台はヴァイキングが栄華を極めた時代。プレイヤーはケルト人の女戦士『セヌア』となって恋人を救うために単身『ヘルヘイム』を目指す。
 北欧神話をベースとした重厚な世界観で表現される精神病の症状にプレイヤーは戦慄するだろう。



要旨

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 『Hellblade(ヘルブレード)』の映画的な美麗なグラフィックと優れた音響で表現される精神病体験には目を見張る。セーブデータが消失するリスクと合わさりパリィ主体の剣戟アクションも刺激的だ。 

 欠点を挙げるとテンポを悪くするパズルと爽快だがプレイの幅が少ない戦闘イベントの2点だ。特に戦闘のバリエーションの少なさは勿体ない。

 価格を考えると贅沢な作品。是非国内PS4版も出して欲しい。 


美麗なグラフィックで描かれる世界

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 『Hellblade』の北欧神話をベースとした舞台は美しく壮大だ。その映像は大作に引けをとらない出来映えである。


 特筆すべきは『セヌア』が見せる表情だ。フェイシャルキャプチャーが駆使された『セヌア』の表情変化は驚くほど違和感がなく不気味の谷を越えている。



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熱演過ぎて恐怖が伝わってくる。

シンプルで出来の良いアクション

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 『Hellblade』が採り入れた優れた剣戟アクションでは力強くスリリングな戦闘を楽しめる。中でも随所に現れる魅力的なデザインのボス達と対峙した時は格別だ。

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ボス戦の迫力には驚かされる

 パリィを主体とした戦闘に緊張感を与えるのが、繰り返す死により闇が『セヌア』を蝕みセーブデータの消去へと繋がる点だ。
 このシステムがプレイヤーに『セヌア』が感じる恐怖と同調させるのに一役買っている。

 
 やや残念なのがプレイの多様性がない事と少々戦闘が少ない点だ。その感覚に拍車をかけるのがルーンを探すパズルの多さである。

 もちろんパズルパートの中にも面白い場面は有るのだが、全体的に刺激が少なく退屈さと作業感を与えてしまっている。

 


丁寧に描いた精神病の表現

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 統合失調症をベースとした表現は巧みであり上質。ヘッドセットでのプレイを推奨するだけあって特に幻聴の表現が凄い。女優が魅せる迫真の演技と相まって本格的に辛い。

 耳元で囁くような声、蔑む声、命令する声と統合失調症の患者が悩まされる幻聴が聞こえてくるのだ。それも実際の聞こえ方を再現するバイノーラル3Dオーディオで表現されるので精神が削られる。

 つきまとう幻聴は囁き声ですら耳障りなのに、罵倒する声や嘲笑になると不快極まりない。幻聴により美しい風景も色褪せて見え、不気味な風景では更なる恐怖を掻き立てる。


 心を削られ短時間のプレイでも気疲れする時もある。継続した幻聴により日常生活が困難になるのも頷ける。


 プレイヤーは『セヌア』が感じる幻覚と恐怖を通じて、精神病を患う人達の苦しみや恐怖の一端を確かに体験できるだろう。



後世に影響を与える傑作

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 『Hellblade』はアクションゲームとしての質を高めることも可能であっただろう。
 
 しかしドキュメンタリーで語られるように精神病体験の質を高めることに注力したのは明らかだ。その結果として忘れがたい作品となったのは間違いない。

 
 百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、ヘッドホンで体感する幻聴から患者が抱える恐ろしさと苦しみの一端が感じとれた。

 
 『Hellblade』はプレイヤーにゲームを通じ精神疾患へ理解と共感を与えてくれる可能性を秘めた傑作である。