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『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』ネタバレ感想/考察

フィンチ家に纏わる怪奇を描いた傑作

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 不幸に好かれた奇妙な一族であるフィンチ家の人々を描いた物語。本作は主人公が手記等を読んだ時に浮かんだイメージが映像化されている作品です。

 文字を読んだ時に頭に映像が浮かぶ人がいるそうです。私もその一人でありプレイを終えたとき本を読み終えた時に感じる満足感を覚えました。

 そしてプレイ中になんとも表現しにくい感覚に包まれたのを覚えています。どうやら日本の怪談を参考に作ったそうで、この恐怖とは少し違う奇妙な感覚はそのせいなんでしょう。

 前回と違い今回はネタバレありで感想を記そうと思います。

印象的な表現のイベント達

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 全員に触れようかとも思いましたが、どんどん長くなるので割愛。印象的だったイベントを取り上げようと思います。



Molly

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 幸福な消失の様な作品かと予想していた自分をガツンと殴り付けてきた最初のイベント。子供の未発達な内蔵に特有の空腹が原因の悲劇でした。

 Mollyの死因は手当たり次第に口に運んだ結果の中毒死でしょう。彼女の強い飢餓感は話題となった『リトルナイトメア』にも通じます。

 このイベントは飢餓からの解放がテーマでしょうか。空腹の中で部屋に閉じ込められたMolly。手記の中で彼女は様々な生き物に姿を変え、自由に動き周り思う存分補食します。


 不幸な事故ですが彼女が空想の世界で穏やかに世を去ったのは、僅かながらもEdieの救いになったでしょう。このイベントで海の怪物と化した場面は作中でも特に面白かったです。




Barbara

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 人は貪欲なので似たような刺激が続くと飽きてしまいます。そんな時にやってくるのがBarbaraのイベントです。こう来るか!と思わず膝を打ちました。


 本作で最も凄惨な最期を迎えたと思われる登場人物ですが、最もエンターテイメントしているイベントでもあります。


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 耳を残し姿を消した彼女の物語は実に恐ろしい未解決事件です。これには遺族が女優だったBarbaraの夢に合わせホラー映画風に記憶に留めるのも分かります。

 失った悲しみに対して何かしらの答えを用意しないと、残された人は前に進めないものですから。






Lewis

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 丁寧に時間を掛けて語られたEdithの兄Lewisの物語。弟Miltonの失踪に責任を感じ心の在り方を崩します。


 Lewisが現実世界を捨て行く過程をゲーム的に追体験させる流れは素晴らしかったです。これには背筋に薄ら寒さを感じました。


 単調な鮭のカット作業の中で大きくなっていく空想の世界。徐々に煩わしさを増していくカット作業。いつしか作業は消え妄想の世界に入り込みます。
 そして壮麗なパレードの終となる玉座に鎮守する断頭台。彼は自ら人生を終わらせます。


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 悪臭と危険を伴う単純作業とそれを行う自分を嫌ったLewis。程度の違いはあれど誰しも日々の生活に空虚感を感じたことはあるのでしょう。何処と無くゾッとさせる話でした。
 


フィンチ一族が抱える呪いとは

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 私としては超常的な呪いは存在しないという結論に達しました。あえて呪いがあるとすれば、強迫観念や強迫行為を感じさせる描写が散見されるので、強迫神経症があるかもしれません。遺伝こそ否定されていますが、親族から影響を受けるケースは見られますし。

 さて一族を死に至らしめた呪いと言えば『ケネディ家の呪い』が有名です。こちらも一族で不幸を招く行動が重なった結果だと言われています。

 フィンチ家でも悲劇の連鎖が不幸を招く思想に繋がったのでしょう。フィンチ家の死因も事故が多数を占めており避けられた不幸が殆どです。

 それに死に様と思いきや生き様を伝える演出であり、死者の最期を眺め続ける作品の割りに陰鬱さは感じないのです。

 亡くなった当人達の多くは「不運」も「不幸」も恐れていない気がするんですよね。むしろ人生を楽しんでいたとすら感じます。

 一族で最も不幸の運命を恐れていたのはDawnですが無理もない話でしょう。

 彼女は9歳で弟Gregoryを亡くし両親は離婚へ。そして14歳の時に再婚を嫌った弟Gusが事故死。その翌年に眼前で父Samを亡くしています。


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 成人し家を離れて不幸は鳴りを潜めます。しかし結婚を機に戻ったフィンチ家の屋敷で次男Miltonの失踪、叔父Walterの死、そして長男Lewisの自殺と不幸は続き親しかったEdieとの間にも溝が生まれます。


 そりゃあ。Odinの様に呪われた一族だと信じる様になっても不思議じゃないですね。結果として再び屋敷から離れる決断をします。


 対するEdithは多くの死を経て達観した様子の曾祖母Edieの影響か、母親Dawnと比べると割りと呪いに対しては冷静な様子です。

 一族最後の1人となり一族と向き合ったEdith。彼女の母からもっと話を聞きたかったという想いからか、Edithは祖母Edieの様に我が子にフィンチ家のルーツを物語として残します。


 きっと母Edithが遺した物語と屋敷は幼い子の孤独感を和らげてくれるでしょう。自身のルーツは人の心を支えてくれるからです。

 フィンチ家の物語を残すことでEdithは一族に漂っていた呪いを救いに変えたと私は感じました。



追記:
 呪いではないと言いながら、失踪したMiltonとEdieについて書かないのも変なので追記します。

 失踪したMiltonのパートは同スタジオの作品『The Unfinished Swan』のオマージュとなっており、超常的な世界への繋がりを感じさせます。ただ私は転落し海へ落ちたのではないかと考えています。Lewisの部屋へと渡る通路の下は海に面した崖であり、真相としては妥当なところでは無いでしょうか。

 屋敷の散策は面白かったです。しかし流石に上層の子供部屋は危険でクレイジーにも程があり、やり過ぎだった印象です。そもそもどうやって運び上げたんだろう。



 次にEdieですが、彼女は入水自殺をしたのだと考えています。施設に入るのが嫌だったと言うよりも、一族の歴史が詰まった屋敷を離れて死ぬことが嫌だったのではないでしょうか。 

 多くの家族が過ごし死んでいったフィンチ家の奇妙な屋敷。親族の絵を飾り部屋を保存してきたEdieの死に場所に相応しいでしょう。あの屋敷こそEdieの人生なのですから。



おまけ。本作の背景にある時事ネタ

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 500年に渡り不幸に見舞われたフィンチ家。本作はOdin(1880~1937)が船舶によりノルウェーを離れアメリカへ移住した頃からの物語です。

 当事の背景としてはノルウェーでは造船業で栄えており1879頃から北米移民のブームが起きています。その関係で北米にはノルウェー系アメリカ人が多いそうです。

 また1895年頃には船舶で北極探検をしたフリッチョフ・ナンセンが国民的英雄となっています。これがOdinの無謀とも言える船出の理由でしょうか。


 フィンチ家が造船技術を利用し増築や改築を繰り返したのや、独特な葬送習慣を維持・発展させたのはノルウェー文化をルーツに持つのが理由かもしれませんね。


 他にも本作の登場人物の没年には背景となる出来事がありそうです。

 海が好きなMollyのイベントは乗員が謎の失踪を起こしたオーランメダン号事件を彷彿させますし、宇宙好きのCalvinが亡くなった年はガガーリンが人類初となる有人宇宙飛行を達成しています。

 またBarbaraの亡くなった年代は多数のビッグフット目撃やサイコ・ゾンビと言ったホラー映画ブームの幕開けが起きています。

 地下に籠ったWalterのイベントはシェルターと核爆発を彷彿させ、同年代に起きたキューバ危機を表している様に感じました。


 他にも色々と時事ネタが含まれていそうなので、色々と調べるのも楽しそうです。