トラウマを体験するゲーム
『バウンド:王国の欠片』は妊娠を機に幼い頃のトラウマと向き合う主人公の精神世界を描いたアクションゲーム。
主人公の分身となる『姫』の動きはバレエを採り入れており、歩くだけでも華麗で美しい。プレイヤーは絵画のような原色の世界を舞い躍り、主人公が抱えるトラウマを垣間見る。
総論
アクションゲームとしては平凡。その魅力は原色の世界で描かれる美しい映像だ。
特にプレイヤーが操作する姫は移動すら溜め息が出るほど美しい。思わずスクリーンショットや動画を保存すること請け合いだ。
問題は退屈なストーリー。トラウマと言っても劇的な事件がある訳でもなく、各ステージの背景をさらっと流す程度。VRを意識したのかプレイ体験がメインとなるので物語性を重視する人にはもの足りないだろう。
原色の精神世界を楽しめる
美しい映像を見せるゲームは数多くあるが、キャラクターの動作に美しいと感じさせるゲームも珍しい。バレエに通じていない自分でも姫の所作はとても美しいと感じた。
中でも姫を襲う恐怖に対抗するアクション『踊り』は格別で、恐怖に踊りで打ち勝つ表現は実に華麗である。
姫を絡めとる恐怖は踊りによって昇華され色を変える
バウンドで楽しいのはプレイ中に遭遇する印象的なシーンを撮影し切り取る瞬間だ。その楽しみを高めてくれるシアターモードを備え付けてくれたのは嬉しい。
シアターモードが活躍すること間違いなし
恐怖とは主観的なもの
はっきり言ってストーリーは平凡で面白味に欠ける。この先のストーリーはどうなるのだろう?とプレイヤーの興味を引く力が余りに弱い。
これは恐怖症の人と接した時の「恐いのは分かるけど大袈裟な」という感覚に近い。そもそも恐怖とは主観的な感情であり、トラウマを他者と共有するのは難しいのである。
その点バウンドはゲームプレイとストーリー性の間に感じる違和感により、強調される恐怖というトラウマの本質を伝えることに成功している。
ちなみに重度のトラウマであるPTSDをイメージしてプレイすると肩透かしを食らうだろう。一般的なトラウマの元なる出来事とは、それほど珍しい代物ではないのだ。
真髄はVRで味わえる?
現時点では手元にPSVRが届いて居ないので評価出来ないのだが、VR体験を重ねてきた自分の感想としてはバウンドはVRでプレイする方が面白そうな作品だ。
VRなら姫が渡る橋の高さや怪物のサイズもリアルに感じ、幼い主人公の感覚をより理解できるのではないかと考えるからだ。
この項目はPSVRが届いてから改めて書く予定。
11/9追記
PSVRで遊んでみました。想像以上に美しい映像で驚いた。原色の世界はVRと相性が良いのだろう。
正に眼前で艶やかな姫が舞う姿を眺めるのは圧巻。観賞ゲーとして秀逸だ。
通常版では退屈で同調しにくかったトラウマ体験も
、サイズ感が得られるVR版なら同調しやすくなっている。きっと子供にとって親は恐ろしく強大な存在なのだと知れるだろう。
問題はカメラワーク。固定カメラなので酔いにくいのは評価するが、アクションシーンの難易度が跳ね上がる。カメラの角度が悪く落下することが増えてしまった。
元々が現代アートを楽しむ作品といった趣なので、VR版で魅力はかなり高まったとは思う。癖は強いので買う際はお財布と相談しよう。
以後は一応、ネタバレ感想
ストーリーはオマケ
ゲームプレイに関しては、似たような操作を繰り返させるプレイの割りに満足度は高く、美しい映像や動きをシアターモードで撮影して楽しめた。中でもエンディングで披露する踊りは素晴らしい。
しかしながらストーリーが余りに退屈なのだ。妊娠を切っ掛けに幼い頃の思い出と向き合う主人公。彼女のトラウマとして、支配的な父親、冷淡な母親、兄との確執、そして悲劇の事故による別れが描かれる。
それらは幼い主人公にゲームプレイの様な強い恐怖を与える体験となっても不思議はない。それでも他人からするとトラウマは同調しにくい感覚だと実感する。
その点では安易にPTSDを与える様な衝撃的な出来事にしなかったことは評価できる。この主人公に起きた出来事とゲームプレイの間に感じる落差こそトラウマの表現に相応しいだろう。面白いかは別として。
ところで最後に急に出てきた最後の選択。感情移入しにくいので、どちらでも良いなと投げやり気味になってしまった。
物語性を重視した『ライフ イズ ストレンジ』や『ウィッチャー3』と比べても仕方ないが、この最後の選択は蛇足だった気がしてならない。