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The Order: 1886 で学ぶ産業革命 part4 ~格差の象徴ホワイトチャペル~

The Orderをより楽しむための本シリーズ。

(あんまりにも産業革命に特化したので、そのうちゲーム感想の部分を分割します。)

最後のpart4は格差の象徴ホワイトチャペルとなる。ここで現代の社会の基礎が作られた。


ホワイトチャペルのスラム化

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 ホワイトチャペルはシティ・オブ・ロンドン繁栄により生まれた貧民街だ。人口革命によりイギリス国民の数は増えたが工業革命でより多くの労働者が必要となった。当時は「数は力」であり、人口=国力と言う考えが一般的だった。その為イギリス政府は積極的に移民を受け入れ労働力の確保を目指した。

 産業革命早期の資本家達は、労働者は怠け者で飢え無いと働かないと考えていた。賃金を下げて生活を困窮させる事が労働意欲の確保に繋がると考えており、今で言うブラック会社で溢れる事となる。
 また元は好きな時に働き・休む農民だった労働者にとって、始業時間の遵守や時間給の考え方は一般的でなかった。そんな労働者をコントロールする為に様々な手段が用いられた。中でも効果的だったのが有名な「イングリッシュ・ブレイクファースト」。朝食文化だ。

 工場は紅茶と砂糖・シロップを用意し始業前に労働者に振る舞った。労働者が買える安物の硬いパンも、蜂蜜を模したシロップを付けたり、紅茶に浸せば美味しく食べられる。労働者は美味しい朝食を食べる為に時間通りに工場に集まる訳だ。カフェインと糖分が労働の効率化も促すので一気にこの習慣は広まった。国が民衆の疲弊は戦争で不利になると、労働者の保護を行うまで労働者は低賃金と朝食文化にコントロールされる事となる。




都市の匿名性

 繁栄の象徴であるシティ・オブ・ロンドン。そして繁栄の影となるホワイトチャペル。両者は匿名性によってその特色を強めていった。匿名性がシティ・オブ・ロンドンではファッションの価値を、ホワイトチャペルでは犯罪の凶悪化を後押しする事になる。

 道を歩いていて「知らない人が溢れる」この環境が「見た目」の価値を押し上げた。良い服を着ていれば資本家である可能性が高い。だから資本家の様に扱われる。例えそれが実態とかけ離れていようとも。匿名性が強い都市ではファッションにお金を費やす価値が確かに有ったのだ。それが民衆の消費を促進することになる。


 同時に匿名性は他者への関心の減少を引き起こし、貧困との相乗効果で犯罪の頻度を高めた。特にホワイトチャペルでは急激な人口増加に対して場当たり的な都市化で対応した為、歪な増築を繰り返し迷路のような複雑な路地で溢れる事になる。誰が何処で何をしたか。それが分からない。知ろうともしない。犯罪の凶悪化は避けようが無かったのだ。
 


精神病院の登場

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 産業革命は自然科学に対する見識を深め、医療も近代化する事になる。特に発展してきたのが解剖学だ。宗教から解放され人の体を物として評価する事が出来る様になった。

 そんな中で精神病院の存在はイギリスから始まった。それ以前は精神病は教会の管轄であった。例えばエクソシストによる悪魔祓いである。統合失調症の自我の損壊に対して宗教の教義は親和性が良く、一部の患者に対して実際に治療的に働くことは十分にあり得たからだ。悪魔よ去れ!ではなく聖書を読み聞かせる事が認知行動療法(思考方方法を変える訓練のこと)として効果的だったのだ。

 ロンドンで誕生した精神病院では教会と違い摂食障害や梅毒の治療も行っていたそうだ。過酷な労働と低栄養による精神の破綻や、売春により拡大した神経梅毒が原因で貧困層の患者は増加し続け管理や治療を必要としたのだろう。強いストレス環境では弱者から順に社会から零れ落ちていく。もはや本人の問題と簡単に切り捨てられる物ではなくなった。

 しかし、この精神病院は劣悪な環境で悪名を残す事になる。産業革命初期ではコストが掛かる刑務所の様な収容施設は一般的でなく、労働力としてアメリカ大陸に奴隷として島流しにされていた。労働力として適さない患者を収容するにしても、さしたる治療方法が無い精神病院もコストが掛かる。これを打開する為に当時の精神病院は一部の患者を見世物にして資金調達をしていた。植民地の人々を「奴隷」として扱うのと同様に自国民ですら弱者は「人間」として扱われなかったのである。



資本主義国家から福祉国家へ

 大英帝国は世界に先駆け産業革命を起こし「帝国」として繁栄を果たした。そして資本家達が権力を握る資本社会国家へと姿を変えた。支配的な帝国主義と結び付いた資本主義により大英帝国は超格差社会への進む。
 その結果として疫病・売春・犯罪等の社会問題に直面することになる。その問題の多くは貧困が原因であるのは明白だった。そして社会維持の為に国の主導で富の再分配と公衆衛生の確保を行う事になる。こうして現代の福祉国家の基礎が作られた。

 そんな産業革命期のイギリスは何処か現代アメリカの世相に似ている。大英帝国の覇権が衰えた時にその席を奪ったのはアメリカであり、それは今も続いている。そんなアメリカは大英帝国と同じような問題に直面している。資本家に過度に富が集中し拡大する経済格差とそれに伴う医療格差。そして独善的な他国文化への侵略とそれに反抗するテロリズム。アメリカが抱える社会問題は山積みであり、帝国主義要素を含む資本主義から脱却しアメリカも変わる時が来たのだろう。




私達は産業革命時代に生きている。

 明確には後世の人が時代として期間を定義する事になるだろうが、実は現在は第四次産業革命期と呼ばれている。私たちも産業革命の歯車が揃ってきているのは日々のニュース等でも感じていると思う。最も早く革命を成功させた国が覇権を握るのは明確であり各国が力を注いでいるからだ。そんな歯車の例を挙げるとすれば次の様な物だ。


・誰でも膨大な情報にアクセスできるインターネットやスマートフォンの登場による起こった情報革命。

・3Dプリンターの登場が個人での設計・製造を可能にした製造革命。

・iPS細胞で現実味が増した再生医療による医療革命。

・ビックデータと統計学を基に進化し続けるAIの先にある人工知能革命。


 他にもエネルギー革命を起こす為の様々な試みや、ミドリムシを使って食料革命を目指すニュースなど。有望な研究が出揃って来ている。イギリスで起こった産業革命も最初は一つ一つの歯車が出来上がり、それが噛み合った時に一気に動き出した。
 近いうちに歯車は揃うだろう。情報革命で私たちの生活・文化が変わったように、これからも次々と新しい革命が生活・文化を変えてく事は間違いない。今から5年・10年後が楽しみである。