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[感想・評価]Everybody’s Gone to the Rapture -幸福な消失-レビュー

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 PS4で配信となったEverybody’s Gone to the Rapture -幸福な消失-(以後、幸福な消失と表記)はイギリスの田舎で起きた集団失踪の謎に迫るSFミステリー作品である。

 舞台は1984年イギリスの田舎村ヨートン。豊かな自然に囲まれたこの村の住人は突如失踪した。争った形跡はなく死体も見つからない。ただ忽然と姿を消したのだ。

総評

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 キリスト教と科学の両面から楽しめるSFミステリー。プレイヤーは天文学や物理学の様に事象の「観測」を行うだけなので、多くの人がイメージする「ゲーム」ではないだろう。しかし、「観測者」として記憶に残る「体験」が得られる風変わりな作品。

 その魅力は美しい風景と素晴らしい音楽だ。中でも星空が特に印象的で、多くの人にプレイして欲しいと思わせる力がある。

 欠点は必要悪とも言える緩慢な移動と少ないセーブポイントだ。しかし、それほど長い作品では無いので許容範囲だろう。


最初に

 幸福な消失はゲーム性は殆どないが、VR(ヴァーチャル・リアリティ)を彷彿とさせる「体験」が味わえる。是非ともVRでプレイしたいので対応に期待。あの世界に包まれたい。

 キリストの受難を描いた映画のパッションで見られるように、日本人が思っている以上に海外では強い宗教観が根付いている。

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残酷か、それとも崇高か――映画「パッションの衝撃度」(サンデー毎日 2004年4月): 佐々木俊尚 これまでの仕事

 日本人には本作の題名にある、キリスト教の携挙(Rapture)の価値観は分かりにくいだろう。その為、幸福な消失と言う副題は悪くなかったと思う。私も副題の方がしっくりくる。

 キリスト教の思想に触れられる点を含めて「神」ゲーの名を与えるに相応しい作品だ。

ちなみに、ネタバレ含む考察はこちらに記している。
k456.hatenablog.com


情報を整理する思考ゲーム

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 プレイヤーは集団失踪後のヨートンを訪れる。事件後のヨートンには謎の「光の球体」が漂っており、その球体の力で失踪前の住人達を幻影として見ることが出来る。

 球体が見せる幻影と村に遺された証拠を突き合わせ、失踪事件の真相を追うのだ。

 幸福な消失は明確な答えが提示されない物語だ。探索と考察を楽しむ必要があり、一周目では気が付かない出来事も多い。特に「光の球体」が見せる幻影は時間軸が前後しているため、物語の結末を見る前と見た後ではイベントの印象も変わるだろう。
  
 途中で読み返せない推理小説の感覚に近いので、スクリーンショットやメモを取りながらプレイすると情報を整理しやすい。 


与えられる孤独と不安

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 素晴らしい町並みと自然が表現された美しい世界。あえて登場人物の姿を描かないことで、映像に更なるリアリティを与えていると感じる。

 そんな美しくも生活感のある町を歩いていると、すっぽりと人々だけが抜け落ちた世界に次第に違和感を覚えてくる。無線や電話から流れる音に応える者はなく、不気味に鳴り響くだけの世界。

 住人が消えた理由は定かではないので、プレイヤーは徐々に孤独を感じなんとも言えない不安を覚えてくる。プレイ当初はこれを恐怖と表現したが、これは日常生活でも訪れる漠然とした不安感に近い。

 そんな孤独と不安が謎の「光の球体」が見せる住人の幻影を求めさせ、プレイヤーを物語へ引き込んでいく。


救いとなる印象的なイベント

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 プレイヤーは孤独感と緩慢な移動と言う苦痛を与えられ、広いヨートンの村で探索と思索を繰り返しながら答えを求めて道を進んでいく。

 苦難とも言えそうな長き歩みを続けられるのは、好奇心を刺激する情報、そして感情を動かす美しい映像と音楽をもたらすイベントの存在があるからだ。この苦難と喜びの繰り返しは人生を彷彿させる行程である。

 その行程の中でも登場人物の「消失の瞬間」を彩る映像と音楽は際立って美しい。この「消失の瞬間」に登場人物だけでなくプレイヤーも確かに救われるのだ。この奇妙な同調を是非味わって欲しい。
 

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