ゲームで歴史に興味が沸いた人向けに書く本シリーズ。The Orderをプレイした貴方はこの時代のイギリスに惹かれた訳だ。
このゲームは細かい所まで検証しており、娯楽作品では有るが歴史を学ぶに悪くない素材。一部の技術や半獣等の設定を除くと史実に沿って作られている印象だ。
これを切っ掛けにイギリスの歴史に興味を持てれば作品をより楽しむ事が出来る。また、他のイギリスが舞台である作品の満足度を高める事にも繋がる。自分の楽しみ方の紹介も兼ねて簡単に時代背景を解説しようと思う。
ちなみに話題のBloodborne(ブラッドボーン)も19世紀イギリスをイメージしている。プレイするなら知っておいて損は無い。
さて、本シリーズはThe Orderをより楽しむために
1)産業革命とは何か
2)反乱軍と東インド会社
3)産業革命と性習慣
4)格差の象徴ホワイトチャペル
この4点を前半はイギリス近代史の説明し、後半はゲームの考察をしようと思う。ある程度史実に沿って作っていると仮定した考察なので、公式の見解と違う可能性がある点はご了承ください。
ゲームの舞台は1886年。産業革命後期に位置する年代だ。実は産業革命以前はヨーロッパ諸国は強国とは呼べなかった。古代ローマ帝国の遺産は中東に受け継がれ、アジアは豊富な資源を元に繁栄しており確たる国力を有していなかったのだ。
当時はシルクロードを伝って技術や文化を得ている周辺国家に近い立ち位置だったといえる。その後、大航海時代を経てアジアの文化・資源はヨーロッパへと一気に渡りイギリス産業革命の基礎が固められていく。
そもそも産業革命とはいつ起きたか定かでない。諸説あるが概ね1750年から1900年に掛けて起きたと言われている。
その間150年。言うならば、産業革命時代である。
現代社会の基盤は全てこの時代に作られたと言って過言でない。産業革命以前は身分制度が全てであり、殆どの民衆が自給自足の農民であった。産業革命はこれを変えた。
時計の利用や時給の考え方はここで確立し、労働者と資産家と言う格差社会もこの時代から始まったのである。それは同時に教会や貴族の権力が低下し身分制度の崩壊に繋がった。
産業革命で起きた事は大きく分けて三つ。
1)エネルギー革命
2)工業革命
3)人口革命
この全てが合わさって「大英帝国」が誕生した。この時代、イギリスは正に帝国だった。全ての中心にイギリスが在ったのだ。
今回は全体を軽く説明しようと思う。細目を語るとキリが無い。
1)エネルギー革命
石炭の使用。これがエネルギー革命である。
それまでは有機物に頼る生活だった。有機物とは木炭や馬等の動物の事である。水が少なく岩地が多いヨーロッパでは、木材の安定供給は難しく馬を育てるのも大変だった。そもそも人が飲んで食べて生きることで精一杯だったのだ。
石炭は食べれない。これがエネルギーの代替品として重要な要素だった。
2)工業革命
石炭は蒸気機関の発展を促した。蒸気を利用する理論を考えたのはフランスだったが、実用に足る技術を産み出したのはイギリスである。蒸気エネルギーの効率化が大規模工業を産み出した。
同時に大規模工業は雇用関係の発生に繋がる。それは民衆の農業からの脱却を意味した。これにより雇用主と労働者、家事をこなす専業主婦と言う存在が生まれた。現代社会の家族の成り立ちはここから始まったのだ。
3)人口革命
困窮を好まぬ人間は、食糧供給量に合わせて人口増加を自粛する。これが「マルサスの罠」と言う考え方だ。食糧が十分に無いのに人が増えても苦しいだけだ。それなら制限しようと考えるのが自然の流れと考えたのだ。
長らく「マルサスの罠」で抑制されていた人口増加はエネルギー革命による余剰エネルギーの獲得。次いで工業革命による農業の効率化を受けて人口は急激に増加する。急激な人口増加は工業革命と合わさり都市化を促進した。都市の概念はこの時に始まった。
三つの革命の相互作用により、いち早く近代化したイギリスは産業と文化の発信地となり帝国の地位を固めた訳だ。
ゲームの背景としての産業革命(ネタバレ注意!!)
ゲームの騎士団は「卿」の称号を持つ貴族の象徴とも言える。即ち旧体制側の存在だ。特にそれを体現したのが大法官だろう。彼は典型的な老害として描かれている。
彼にとっては騎士団の維持が最優先であり、騎士団の意義や革新には興味がない。何より1886年では資本家の台頭により貴族・身分の実質的価値の低下が起きており、騎士団は以前と比べると権力を失いつつあったのも要因だろう。
産業革命の前段階として前述した大航海時代がある。この時に生まれたのが東インド会社だ。東インド会社は貿易により大きな権力を有し多くの国を植民地としていく。
ゲーム中ではこの際に半獣を利用したと考えられる。史実で原住民を駆逐したのは都市化によって生じた「疫病」だったからだ。半獣(吸血鬼)は疫病の象徴では無いだろうか。
史実では東インド会社は他国を侵略し、砂糖・紅茶・煙草そして奴隷貿易で利益を上げている。ゲームでもその立ち位置は変わらない。他国から見れば悪魔の様な存在だが、イギリス国内では政府から権限を与えられている繁栄の立役者だ。
古来からの組織と言えど騎士団が対立出来ないのは当然である。騎士団はその存在意義を失っていたのだ。
大法官の一連の嘆きはそんな風に私は感じた。
第2章でガラハッドは騎士は感情で戦ってはならないとラファイエットに言っている。そんな彼も復讐に駆られ自身の定義する騎士では無くなっていく。そして最終的にはインド解放を目指す反乱軍の一員として半獣討伐を決意する。
感情で戦う事を肯定していたラファイエット。ガラハッドを見逃し再開の約束をする。騎士らしくない騎士のラファイエットだからこそ、ガラハッドの決断を尊重出来たのかもしれない。
あの場面はこのゲーム最大の見所だと思った。グッときた。
全く触れられていないが、パーシバル(マロリー)は物語冒頭からフードの男と接触しており、以前から反乱軍に協力していた様子が伺える。
ガラハッドはマロリーの復讐の為に戦い、結果としてその遺志を継いだことになるのかも知れない。
長々とここまで読んで頂きありがとうございます。part2では真のヒロインである姫様と東インド会社に関して記そうと思う。良かったらそちらもどうぞ。
・参考図書
産業革命 (世界史リブレット)
イギリス近代史講義 (講談社現代新書)
イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)
・関連記事
[ネタバレ]The Order: 1886 で学ぶ産業革命 part2 ~反乱軍と東インド会社~[考察] - 人生はFPSやゲーム。時々哲学。